まとめたのに何だかまとまらない「大衆社会の成立と問題点」

　産業化をもっと進めるのだ。全国市場を作るのだ。そのためにはまず統一言語を普及させるのだ。もちろん交通網・情報網も整備するのだ。
　社会に反抗する者どもは、叩いても叩いても出てくる。ならば考え方を改めて、飴を与えて不満を解消してやろうではないか。劣悪な労働環境を取り締まる法律を作ってやろう。選挙権もやろう。教育も受けさせてやろう。
　
　教育水準が上がったおかげで労働者共の作業効率も上がって税収も増えて、いいことだらけじゃ。なに労働者共がもっと政府からのサーヴィスを寄越せと言っておるとな。放っておけい。なに無視できる数ではない、要求を呑まなければ大規模な暴動が起こるかもしれん、あるいはストを起こすかもしれんとな。むむむむそれはよろしくないのう。やむをえん、サーヴィスを拡充してやれ。
　よしよし、満足してもらえたようじゃな。まったく、満足している間はおとなしいもんだから、つい油断したわい。もうこんなことが起きぬよう、少しずつ、少しずつサーヴィスを与えていくとするか。

　そう、いまや政治家に必要なのは理念ではない。いかに民衆を満足させておくか、つまり利益誘導の能力こそ必要。私はその点問題ない。利益確保と管理のエキスパート。国を良くする事は出来なくても、民を満足させておくことは出来ます。これこそ現代の政治家。細部までサーヴィスを行き渡らせてあげます。
　
　フン、甘いな。民衆を満足させることはないのだよ。満足しそうな餌をぶら下げ、さもそれをくれてやるようなパフォーマンスさえしていればいいのさ。いや、単に特定の日に特定の気分に酔わせてやるだけでも十分かもな。「8月15日だから平和を祈ろう」とかね。具体的な政策なんか必要ないよ。こんなアピールだけでも連中は票を投じてくれるんだから。

　サーヴィスを享受するためにも、政府には従順でいよう。何せサーヴィスが受けられなくなったら、とても医療費なんて払えないし、子供に教育だって受けさせてやれないし。えっ、「政治家になってこの国を良くしろ」だって？冗談。今の生活に満足しているよ。

　・・・こうして大衆社会は、「今は満足しているから」との理由で政治的に沈黙する大衆と、「今の大衆に満足を与えておけば、今の私の地位は安泰だ」と考える政治家ばかりになり、その政治は「舵の無い船」となるのでした。

　これで明日のテストにかすりもしなかったら泣ける。